玉井康之北海道教育大学釧路校教育学科

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教員養成のカリキュラム・モデルの概念図

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日本教育大学協会モデルコアカリキュラムの成果と実践上の課題
—モデルコアカリキュラムを実践した大学の経験を踏まえて—
(文科省「教職課程コアカリキュラムのあり方に関する検討会」 平成28年8月19日)

 

北海道教育大学釧路校
玉井 康之

はじめに

 

 日本教育大学協会の最初のモデルコアカリキュラムの理念は、極めて先進的な内容を提示しており、大部分の大学ではこの方向を模索し、現在でも理念的な方向性は多くの関係者に支持されている。
 ただ、このモデルコアカリキュラムは強制力を規定しなかったため、多くの教員養成学部では、教科専門教員との学内調和を図りつつ、大きなカリキュラム変更をしない形で再編を行った。そのためこのモデルは努力目標の位置づけとなった。その中で北海道教育大学釧路校と島根大学は、モデルコアカリキュラムの理念を実現すべく平成18年度から、モデルコアカリキュラムを教育課程に入れた改革を実施した。

 

1. 「教大協モデルコアカリキュラム研究プロジェクト」の委員会設置と答申

 

(1)「教大協モデルコアカリキュラム研究プロジェクト」の設置

 「日本教育大学協会モデルコアカリキュラム研究プロジェクト」は、日本の教員養成課程の現状と課題を分析しながら、日本全体の教師教育の改善方向を示すために設置された。委員会構成委員には、各地方から、教員養成課程全体や教師教育のあり方に詳しい教員が選出された。

 

(2)4年間教育実践経験の体系化を中心としたモデルコアカリキュラムの答申
・「教員養成の『モデルコアカリキュラム』の検討-『教員養成コア科目群』を基軸にしたカリキュラムづくりの提案」(平成16年)
この提案では、教育実習・教育実践の体系化した配置を中心としたコアカリキュラムを構想した。【図表1】

 

(3)体験-省察を中心としたモデルコアカリキュラムの答申
・「教員養成カリキュラムの豊かな発展のために-〈体験〉-〈省察〉を基軸にした『モデルコアカリキュラム』の展開」(平成18年)
この提案では、実践を省察できる科目・カリキュラム配置を中心としたコアカリキュラムを構想した。
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(4)モデルコアカリキュラム研究プロジェクト委員会のまとめ
実践-省察をコアとし、[理論と実践の往還]、[体験と省察]、[4年間の体系化]を発展条件とするモデルコアカリキュラム
 これらを4年間通じて行うことで、「反省的実践家としての教師」「学び続ける教師」を養成する。

 

2. 「教大協モデルコアカリキュラム研究プロジェクト」による国際比較分析の中での日本の教員養成制度と課題

 

(1)国際比較分析から見た日本の教員養成制度の課題
①欧米の教育実習期間=半年から1年と長い。長期間の実習の中で、教員の適性・資質は、おおむね判定できる。教育学部進学者は、当初から長期間実習があることを理解して進学する。
②日本の教育実習期間=教員養成学部の主免でも5週間で、開放制では2週間実習と短く、教育実習は子ども・学校に慣れるだけで終了する。

 

(2)日本の中での教育実習の4年間の体系化の課題と分析
①欧米=長期実習に加えてボランティア活動が多い。
②日本=教育実習は、4年次か3年次に短期集中的に行われる実習が多い。
→周辺的実習参加から中核的実習参加に至る段階的・継続的な教育実習体系が不可欠。4年間の中で、教育実践を体系的に会得するプログラムを創る必要

 

(3)日本の実習におけるふり返り・省察の必要性
①欧米は、実践的な総括やふり返りの時間が多い。
②日本の実習体系の中では、実践的な総括や集団的なふり返りの時間が少ない。
→複雑な教育実践は多面的な原因と方法を考える必要があり、必ず実践を理論で解釈してみるなど、実践のふり返り・省察が必要
 ③感覚的な実践経験を言語で認識できる説明責任能力の育成
→言語認識による反省的実践家の育成

 

(4)教育実習と教職科目・教科教育科目・教科専門科目との連動性の課題
①欧米=大学の科目が実践的な演習や実践を普遍化した実践理論の内容が多い。
②日本=学校現場の教育実習と大学の教員養成カリキュラムとが必ずしも意識的に連動していない。
→教育実習等の「実践」と大学教員養成カリキュラムの「理論」を結びつける実践理論の講義が必要

 

3. 「モデルコアカリキュラム研究プロジェクト」がまとめた現行教員免許制度内の教員養成改革の課題と方向性

 

(1)免許法上の教育実習は長期化できないので、教育実習以外の実践機会を拡大
①私立大学を含めて考えると、免許法上で必須の教育実習を長期化できない。(大規模私立大学では、1学年で3千人が教員免許を取っている。)
②免許法上の教育実習以外のボランティアや教育実践機会を増やして、実質的に教育実習機会を拡大する。

 

(2)4年間を通じた教育実習・教育実践の体系化のモデルコアカリキュラム
①1年次からの教育実践体験を開始し、4年間を通じて、教育実践意識と実践方法を向上させるモデルを奨励する。
②早い段階で教育現場を体験することで、大学の教育理論講義と実践が結びついて理解できる往還体系。

 

(3)教育実践のふり返り・省察の時間を確保したモデルコアカリキュラム
①実践だけでは、実践方法を反省したり、別の方法を開発することができず、実践力も向上しない。
②必ず実践の省察や集団的な討論時間を設けて、自分の実践を相対化できる時間を確保できるモデルとする。省察し学び続ける教師像を前提にする。

 

(4)教育実習科目群と大学の教職科目・教科教育科目・教科専門科目を連動
①大学の各科目内容も個別科学の寄せ集めではなく、教育実習科目群を意識して講義内容を構成する必要。
②学生は、教育実践経験と大学の理論講義を結びつけながら、大学の講義を学ぶ。

 

(5)モデルコアカリキュラムのコア科目群は、実践科目群を中核にする。
①教員養成系学部のモデルコアカリキュラムの教員養成コア科目群は、教育実践科目群と省察科目群とする。
②教員養成コア科目群は、教職科目や教科教育科目と連動しながら発展する。

 

4. モデルコアカリキュラムの日本での実施上の困難点と運営上の緩やかな指針

(1)モデルコアカリキュラムと免許法との関係
①モデルコアカリキュラムは、免許法改定までは踏み込まないで改善する。
②モデルコアカリキュラムは、多様な教育実践機会を保障することを目指すが、どの単位を活用するかは各大学の判断に任せる。最終的には強制力はない。

 

(2)受け入れ校の負担と実習指導拡大の課題
①教育実習と同じように単位化して指導する場合には、学校現場の負担感が大きい。学校の負担感の軽減が必要
②大学内で、教育実習を指導する実践指導者と単位認定評価者が不可欠
③学校の実践的ふり返りは、当該学校現場で行うのが適切であるが、学校教職員も多忙化および若返りのため、
学校でのふり返り指導時間が取れない。学校に実践のふり返り指導を強制することはできない
④学校現場からはどの大学に対しても、「教育実習は学校現場に丸投げ」批判が強い。

 

(3)大学の時間割と学校現場活動時間帯との齟齬および二重履修の課題
①1年次から学校現場に行かせる場合には、講義期間と重なる場合が多く、二重履修となる。大学講義と学校訪問が重ならないような時間割再編が不可欠となる。
②授業時間と重ならないようにするためには、講義が空いている時間に学校訪問する場合が多い。学校の授業時間帯(9時~15時)には入れない場合が多く、放課後・土日の実践だけでは、学校教育実習としては限界がある。

 

(4)附属学校への教育実習拡大の限界と公立学校への実習拡大の課題
①附属学校にまとめて教育実習や基礎実習に入れる大学が多いが、100人単位の大人数で附属の実習を行っても、子どもと触れ合えず、授業参観もできにくい
②少人数で配属して、子どもとのふれ合いもできるようにするためには、公立学校の協力を得なければならない。

 

(5)実践的指導を担う担当教員の課題
①細部の実習指導やふり返りの中で出る多様な実践場面のふり返り指導は、ある程度実践現場経験のある人でないとできない部分も多い。
②一方実践家だけに任せると経験的な部分に依拠しすぎて、相対化・普遍化できない部分も少なくない。
③大学内の教育実習委員会が担当する場合に、毎年の担当教員によって実習指導内容が大きく変化する。

 

5. モデルコアカリキュラムの実践大学としての北海道教育大学釧路校における成果と方法

 

(1)教育実習コア科目群の体系化と「教育フィールド研究」の導入【図表2】
①免許法上の教育実習に加えて、「教育フィールド研究」を必須単位化
②「教育フィールド研究」は、1年前期から毎週金曜日に公立学校に1日訪問
③4年間の教育実践活動(=「教育フィールド研究」+教員実習)の体系化
「教育フィールド研究」と教育実習が連動・発展するように設定
⑤副免許実習やへき地小規模校実習と併行した多面的な教育実習の設定
 
(2)教育実践(=「教育フィールド研究」)と大学講義との二重履修問題の解消
①二重履修を避けるため、金曜日に大学講義を入れないカリキュラムを編成。
②毎週金曜日を、学校現場実践日に設定。
③子どもの夏休み学習支援活動は各学校に参加→子どものつまずき箇所を把握

 

(3)自己目標設定用チェックリストとふり返りシートを全員に配布
①自分でその日の実践目標を設定し、ふり返りシートを毎回提出する。
②毎週の学校でのふり返りは、学校内で活動後に実施する。
③学校間を超えたふり返り交流は、大学で学期末に実施する。
④学生の実践交流時には、「相互アドバイス」のシートで、相互評価を実施する。

 

(4)学生の自己評価と活動評価によるPDCAサイクル
①学生の自己評価と活動評価を毎年実施して課題を改善する。【図表3】
②学生の教職への迷いは、2年次にいったん大きくなる。これは、自分の課題と教職の使命が見えてきたことによる。一方教職意欲をいっそう高めていく学生も多い。【図表4】

 

(5)上級生による下級生指導で、縦の指導力の育成
①2年生が1年生を先輩として指導することで、2年生が教師として自覚していく。
②学生の立場ではなく、教師の立場に立つことで、教職の自覚が高まる。

 

(6)小・中・特別支援・へき地小規模校の多様な実習経験を奨励
①小・中・特支の3種教員免許を取得して、総合的な対応力を広げる。【図表5】
②へき地小規模校の地域教育・複式教育・少人数学級活動等を学ぶことにより、少人数学習方法など多様な指導方法があることを相対化して学ぶ。

 

6. ステークホルダーとしての学校・教育委員会との互恵関係の発展

(1)「教育フィールド研究」導入の歴史と学校現場との互恵関係の発展【図表6】
①最初は「学校支援ボランティア活動」として導入
②教育フィールド研究の導入時は環境整備も導入し、学校奉仕のメリットを強調
③段階的に教育実習の準備段階としての授業観察実習を導入

 

(2)教員研修への大学教員の派遣等総合的な互恵関係を構築
①大学教員の学校現場経験者が3分の1を占めているので、教員研修等に出る機会が多い。
②釧路市教育委員会と釧路校で、学校支援ボランティアの協定書を締結
③夏の学習支援活動は、学生の学校支援ボランティア活動によって奉仕

 

7. 教育実習の充実化に伴う経費の課題

 

(1)学校への学生派遣交通費等【図表7】
地方では、公共交通機関が少なく、各学校に配属・派遣する交通費が不可欠。
学生のボランティアだけでは、長期間学校訪問をすることは困難。

 

(2)実習アドバイザー等配置の人件費
学校現場と連絡を取る実務家教員は、ある程度専任化した教育実習アドバイザー等の教員配置が必要。

 

(3)地域貢献事業の一環としての教員派遣費
土日スクール・教員研修講師派遣=これらの大学教員の地域貢献が教育実習を受け入れてもらえる間接的な条件となっている。

 

※北海道教育大学釧路校の教育活動は、アクレディテーション試行評価において、高く評価して頂いた。
東京学芸大学教員養成評価開発研究プロジェクト『教員養成教育認定評価 北海道教育大学釧路校 評価報告書』平成27年5月、参照されたい。

 

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